今回は診察でもよく遭遇する、比較的小型犬に多い”膝蓋骨脱臼”について、合併症と合わせてご説明したいと思います。
膝蓋骨脱臼とは?
まず、関節を構成する骨同士の関節面が、正しい位置からズレてしまう状態を”脱臼”と言います。
膝蓋骨脱臼は、膝のお皿、膝蓋骨が膝関節内で正しい良い位置からズレてしまう状態です。
通常であれば、膝蓋骨は、大腿骨遠位の滑車溝という溝にはまっており、屈伸運動を潤滑にサポートしています。
膝蓋骨が内側に外れる”内方脱臼”、外側に外れる”外方脱臼”があり、内方脱臼のが多いです。
うまれつきの”先天性”と、高いところから落ちたなどの”外傷性”にわかれます。
発症が”両側性”である場合も決して少なくありません。
また、オスよりメスが罹患する場合が多く、これは女性に罹患率の多い人でも同じらしいです。
脱臼の評価は、触診によるグレード分類が用いられます。
グレードⅠ 膝蓋骨は手で脱臼できますが、手を放すと元に戻ります。
グレードⅡ 膝蓋骨は膝を曲げると脱臼し、膝を伸ばしたり、手で元に戻ります。
グレードⅢ 膝蓋骨は絶えず脱臼し、手で元に戻りますが、放すと再び脱臼します。
グレードⅣ 膝蓋骨は絶えず脱臼しており、手で戻すことはできません。
生涯を通して無症状の場合もあれば、歳をとるにつれ、症状が出たり、悪化したり、合併症を伴ったりする場合もあります。
治療は、手術と内科治療があります。
高齢の場合は、筋肉の萎縮や健康状態によって、内科治療が推奨される場合もありますが、基本的には、後肢を挙上する、跛行があるなどの疼痛が見られる場合やグレードによって、若くて健康なうちに整復手術を行うことが推奨されています。
脱臼を繰り返すことで関節軟骨は磨耗し、機能障害や前十字靭帯断裂などの二次的な合併症を引き起こすリスクがあるためです。
では、小型犬に多い膝蓋骨脱臼に合併する前十字靭帯断裂はどの程度の頻度なのでしょうか。
ここで、報告を紹介します。
「Severity of patellar luxation and frequency of concomitant cranial cruciate ligament rupture in dogs: 162 cases (2004-2007).」
犬の内側膝蓋骨脱臼の症例(n=162)と徴候、体重、脱臼のグレード、両側性または片側性、前十字靭帯断裂について関連性を調査
片側性:58頭 両側性:104頭
年齢は、8.4ヶ月から16.7歳(平均、5.7歳)で、平均体重は5.45 kgであった
41%が前十字靭帯断裂を併発していた
内側膝蓋骨脱臼のみ犬の平均年齢は、3.0歳、内側膝蓋骨脱臼と前十字靭帯断裂を併発している犬の平均年齢は、7.8歳であった
内側膝蓋骨脱臼グレードIV の犬は、他のグレードよりも前十字靭帯断裂を併発する可能性が有意に高かった
この報告では、内側膝蓋骨脱臼の犬のうち、なんと41%も前十字靭帯断裂を併発していたと、これには少し驚きました。
両側性も片側性の倍近いですね。
日本の一次施設では、ここまで高い数字ではないのではないかと感じます。
まとめると、膝蓋骨脱臼のグレード高いほど、年齢が高いほど、前十字靭帯断裂を併発するリスクがあるということですね。
若いうちに、膝蓋骨脱臼の整復手術をすることを推奨する一つのエビデンスであると思います。
いかがでしたか?
膝蓋骨脱臼は、より身近な病気であり、若いうちに手術をさせるというのは、飼い主様としてはすぐには気持ちの整理がつかないと思います。
しかし、日常生活で後肢をあげるなどの痛みの症状がある場合やグレードが高い場合などは、やはり整復手術を決心する方が後々のためであると思います。
当院では、一般外科にも力を入れています。
高齢で手術ができない場合もできる限り、内科治療で生活をサポートします。
ご不明な点や不安な点があれば、何でもご相談下さい。
埼玉県川口市のハーブ動物病院より
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